Archive for 16 May 2006

16 May

#64.花のお休み

お友達で都立高校の先生をしているNさんが本を書いたそうだ。『東京下町散歩25コース』という本で、年賀状でご案内いただいたのだが、つい不精をして最近やっと手に入れた。お仲間お二人との共著だが、読んでみると良く書かれた力作で、気合の篭った懇切丁寧な記述が嬉しかった。
24番目に登場した「近代遺産を訪ねる」というコースがあったが、確かN先生は近代の歴史的建築がお好きで、N先生の執筆かと思わせる。なにせN先生との馴れ初めは、近代の文化財建築を見て歩く江東区の区民講座でご一緒させていただいことなのだ。というわけで、5月10日そのコースの起点「旧古河庭園」へ出掛けてみた。

東京メトロの南北線を降りて、本郷方向に5分ほど歩くと右手に立派な築地塀が見えてくる。あまりにも和風なので少し訝るが、門には大きく「旧古河庭園」と書いてある。入場料は150円、早速右手奥に黒々とした西洋館が見える。英国人建築家ジョサイヤ・コンドルの設計になる、英国風ネオレネサンス様式の外観は、堅牢・実直というイメージが気持ち良かった。

旧古河庭園の入口。入ると前方に黒々とした西洋館が見えてくる。


このアングルがよく知られたところ。堅牢なイギリス式ルネサンス様式だ。花壇は手入れが行き届き、気持ちが良い。


ここ旧古河庭園の目玉はバラの庭園なので、庭を歩くのだが、どうもバラは咲いていない。どうしたものかと思っていると、庭師に聞いている人がいた。何気なくそばに寄って、耳ダンボにして聴いてみると、「連休に一斉に咲かせたので、今週は休ませることになってしまいました」とのことだった。特に四季咲きのバラは、夏にはどんどん咲いて自分から枯れてしまうそうだ。だから、咲かせないことにも苦心しているという話だった。なんとなく了解してしまったが、150円だからかな。本来なら、事前の告知が必要だろう。
という訳で、花の咲いていないバラの木を見たが、木にはそれぞれ品種の名札があって、マリア・カラスやジーナ・ロロブリジーダなどの名前が読める。肝心の花はないが、そこは得意の妄想で勝手な姿を想像してみた。今度、咲いているとときに来てみる楽しみになった。でも、がっかりしなければいいが。

入口でくれたパンフレットによれば、この辺りはバラで埋もれているはずなのだ。咲いていない理由はどうしても聞いてみたくなる。


咲いていないバラの名前だけ読んで花の姿を想像する。マリア・カラスもジーナ・ロロブリジーダも本当のところ姿は良く思い出せない。


館の中がティールームになっているので、入ってみた。さすがに品の良い空間で、気後れしそうだった。コーヒーを所望したら、ミルクを入れて飲む昔懐かしいタイプのコーヒーがウェッジウッドのカップで出てきた。

ここが正面玄関。ティールームの入口でもある。コーヒーは820円だったか、チョイト高めか。


コーヒーを啜りながら本を改めて読み直すと、このあとこのコースは、湯島の岩崎邸、御茶ノ水のニコライ堂、日本橋の三井の本館から日本銀行本店、東京駅を抜けて日本工業倶楽部と東京銀行集会所、さらには外堀通りの明治生命館と第一生命館、日比谷公会堂のあとは日比谷公園の裏の旧司法省、最後は四谷まで足を延ばして迎賓館で締めくくることになっている。スッゲ〜、そんなに歩くんだ。しかも設定時間は4時間。時計を見たら、もう1時間半も経っている。そうか、N先生の散歩は優雅にお茶なんか飲んではいけないか。でも、N先生、高校生の社会見学にしたって厳しすぎるのではないのでしょうかね。こちらは生来の根性ナシなので、先生には申し訳ないけど「もはやこれまで」とした。


その埋め合わせといってはなんだけど、メトロの駅のそばにある西ヶ原の一里塚を見ることにした。東京で現存する唯一のものらしい。ひとりで見ていたが、やがてどこからともなく一団が現われて、突然観光スポットのようになってしまった。まったく、油断もスキもない。この一団はお勉強好きの方々らしく、順番に自分の調べてきたことを説明しているようだ。邪魔になってはいけないので、退散することにした。

西ヶ原の一里塚は江戸から本郷を経て、2つ目になるそうだ。この小気味良い人だかりは、何がそうさせているのだろう。


これが全体像で、道路を挟んで2つに分かれている。


帰り道、独立法人国立印刷局滝野川工場とやらの看板が目に入った。ここで、お札が印刷されているのだ。「ISO14001審査登録工場」を誇らしげに表示していたが、千円札の不良品を何万枚も印刷してしまい、しかも実際に不具合が起きたことは耳新しい。この立派な表示をみると、環境対策に追われて品質管理が疎かになったように思えてならない。安全を重視したら不良品だらけになったとか、安全や環境を巡るこの手のニガ笑いは少なくはない。

ここが不良千円札の国立印刷局滝野川工場。ISO14001が眩しい看板。



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