Archive for 05 March 2007

05 March

#212.会話から文脈が消えた時代

「ていうか」という言葉が氾濫して何年経つだろうか。この言葉が最初に耳にしたとき、何となく嫌な気がしたのだが、実害がなかったので目くじらを立てるようなことはしなかった。ところが、この言葉を相手に実際の場面で使われてみると、かなり不快な言葉である。なぜかは、そのときは答を見出せなかったのだが、斉藤孝の『質問力』という本を立ち読みしていたら、コミュニケーションについての記述に解を発見した。
今までの会話の文脈や相手が話した文脈を一方的に切断して、自分の文脈に切り替える言葉であることだそうだ。いやはや、鋭い指摘で、その通りである。でも、どうしてこんな会話が成り立ってしまうのだろうか。それは、初めから相手の眼を見て、返事を期待するような会話を目論んでいないからだ。会話というものを、ゲームのキャラクターとの情報交換と同じレベルのバーチャルな世界での会話と決め込んでいるからだろう。

4日の日曜日、近所のララポート・豊洲へ日課の散歩に出かけた。オープンして半年が経って、客足も落ち着いてきたところだ。こちらは、日常の生活とは縁遠い店ばかりなので散歩の対象でしかないのだが、それでもK書店などは恰好の立ち寄りスポットだ。書店に入り棚を見ていたら、お気に入りを見つけ購入することした。
カウンターに行くと、複数の窓口を一列に並んで処理するタイプで、また空いている窓口の女性は手を挙げてお客を呼ぶなど、待たせないような配慮は窺えた。早速、促がされる侭、空いている女性のところへ本を持って行った。
「カバー致しますか?」「結構です」、K書店のカバーは好みではないので断った。それに何となく早く済ませたかったこともあった。「ポイントカードはございますか?」「ありません」「失礼しました」という会話の後、「駐車券は必要でしょうか」「いりません」「失礼しました」という会話が続き、やっと「5166円になります」という聞きたい会話になった。財布の中から千円札を5枚出し、小銭入れから166円を出してトレーに置いた。「5166円、丁度いただきました」と言ったあと、「少々お待ちください」と言って奥に入ってしまった。本は渡してくれないので仕方なく待っていたが、見ると奥のレジの前にいる上司のような人のところ行っていた。そこでは、広いカウンターの全ての売上を1件1件、1台のレジで処理をしているようだ。やがて、「領収書です」と恭しく持ってきたが、「いらない。どうして本をくれないの」と言ったら、「失礼しました」という会話になってしまった。
おもしろいことに、こちらの話したことへの返事が全て「失礼しました」ということになったのだ。

バーチャル会話とマニュアル会話、これでは文脈を意識した豊かな会話が育つわけもない。敬語が云々言われているが、問題は敬語ではなく日本語そのものであることが多い。日本語云々という前に、根本的な人格形成の問題なのだろうか。


06:00:00 | datesui | 2 comments |