Archive for 19 November 2007

19 November

#304.学際のはざま

土曜日の17日、ルネサンス・ジェネレーション‘07というシンポジウムを覗いてきた。テーマは『情動』で、なるほど21世紀っぽい話題だ。対談、インタビュー、映像のアートワーク、それと普通のレクチャーと形式を変えた出し物で飽きのこないように構成がなされていた。情動という小難しいテーマだから気を遣っていただいと思いたいが、普通のレクチャーが一番心地よかった。対談やインタビューは接点でのスパークというような狙いはわかるが、素人にはスパーク以前の蓄積がないのだからスパークのおもしろさなどわかることが難しい。それよりもコンテクストが途切れてしまうようで、折角の話も消化不良状態で聞こえてくる。

その普通のレクチャーで精神科医の十川幸司さんのお話はおもしろかった。開業医のかたわら執筆活動をなさっていることだが、私なりにその立場ゆえに考察できたと思われるところがあった。
情動は、精神医学、心理学、哲学の各学問を包含する形で存在していたと思われるが、哲学から心理学が独立したとき、さらに医学に精神科ができ臨床を進めたとき、情動はそれぞれの領域から疎遠になるような扱いになっていったと思われる。
19世紀の末にフロイトがこの情動と格闘する様を聞かされたが、ユダヤ人であったフロイトは当時研究機関での教授職や研究職に就けなかったために臨床医を開業して、研究を進め論文を認めていた。幸か不幸か、このようなフロイトの環境は情動の研究に向いていたのかも知れない。
情動は、哲学的でもあり、心理学的もあり、精神医学的でもあるため、どこかの分野で研究することがそのままその分野のもつ偏りになってしまうのだろう。また、これらのことをつなぐためには敢えて臨床という現場を持ち込む必要があったのかもしれない。

臨床精神科の大家シャルコーから始まりフロイトを抜けてスピノザに至る十川さんの話は素人の私には馬の耳に念仏だろうが、語り口からフロイトと同じ臨床医の立場でしかできないという自負の重なりに感銘を覚えた次第だ。


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