Archive for February 2009

15 February

#523.イメージつくり込むこと

今年に入ってから、『アラトリステ』、『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』というヨーロッパの映画を観た。キャスト、ストーリー、監督、音楽など映画に期待する要素はいくつかあるだろうが、西洋の時代劇には時代考証を期待することがある。3年ほど前になるが『オリバー・ツイスト』を観たときも19世紀のヴィクトリア期のロンドンの姿が観たくての鑑賞だった。今回も『アラトリステ』が17世紀前半のフランドルやスペインが舞台であり、『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』は5世紀のフランスということだが、特に後者はまだフランスという概念が確立しておらず、西ローマの一部であるガリアという時代だったはずだ。

日本でも大昔のことをビジュアルに想像するのは容易いことではないが、まして外国の昔の姿を思い浮かべるのは不可能に近い。歴史の本を読んでも、人物の顔や建物の外観は示されてはいるが、それだけで当時の生活の様子や人々が行き交う街の姿などが想像できるものではない。

中学の頃、かれこれ40年も前になるが、テレビで『冬のライオン』という映画を観た。白黒の画面にピーター・オトゥールやキャサリン・ヘップバーンの名演が展開されていたが、この画面に出てきた風景が中世のヨーロッパのイメージになった。高校での世界史でも、その後読んだ歴史の本でも、イメージはこの『冬のライオン』からのものだったが、イメージがあるとないとでは大違いで、どれだけ親近感をもって歴史に接することができたかわからない。ただ、最近『冬のライオン』のDVDを買ってみたらカラーだった。チョイト驚いたが、考えてみたら我が家のテレビが白黒だったというオソマツだ。

今回の『アラトリステ』と『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』では、衣食住という具体的なものよりも言葉の端々に出てくる神への信仰の様子がおもしろかった。17世紀のスペインではカトリックの番人よろしくプロテスタントを異教徒と呼んでいたし、5世紀のガリアではまだケルトの神々やギリシアやローマの神々の名も飛び交っていた。こうして甚だ歪だが、ヨーロッパのイメージを勝手に作っていくのも楽しいことだ。


00:14:57 | datesui | No comments |

02 February

#518.中身よし、入れ物微妙

乃木坂の新国立美術館へ行ってきた。加山又造展だ。いかにも展覧会映えが期待できそうだが、見ておきたい作品もあるので出掛けてみたところ、やはり観ておいて良かったと思える展覧会だった。まさしく琳派の風情の傑作、「雪」「月」「花」のお出迎えを受け、ご機嫌のうちに楽しむことができた。
初期の動物の連作を見ると、そのころから厳しい画面構成、精緻な技法という加山の世界は完成されていたよう思える。それが時とともに成長するというよりは、新しい世界への挑戦を繰り返したことによる画風の変化は、見ていて気持ちの良いものだった。「千羽鶴」「春秋波濤」や「夜桜」は何度見ても楽しい。また、一連の裸婦も登場して加山の美の世界は一通り堪能できた。ただ、お目当ての「冬」が2月11日からの展示で、観ることができなかったのはとても残念だった。

国立新美術館へは実は初めてで、開館から2年もたってしまった。好きになれないところがあるからだ。企画展のみというコンセプトだが、美術館は苦しくても常設をもつべきで、腐っても美術館としてのアイデンティティーに固執して欲しいのだ。それが最初から放棄をして、地の利だけを売り物に企画展を自転車操業するのはあまりにも美しくない。

だからという訳ではないが、ケチをつけたくなる。展示替えの案内も親切ではなく、サイトの情報でもよほど注意して見ないと、「冬」の展示期間などわかるものではない。また、黒川記章設計の自慢の建屋だが、あまりにも今どきすぎるようだ。何百年もしたら、「当時はガラスという無機質な素材を先を争うように使用していた。創造性の乏しい設計者には装飾という厄介なものから解放されるからだ。」という嘲笑に似たような評論が飛び交うのではないかと思う次第である。


19:08:52 | datesui | No comments |