Complete text -- "#225.七は七福神"

27 March

#225.七は七福神

先日、五色不動、六地蔵、六阿弥陀の話をした。この続きは七で、七とくれば七福神である。お不動様も、お地蔵様も、阿弥陀様も馴染みが深いが、馴染み深さなら七福神を置いて右に出るものはない。当然のこと、落語にも登場している。
大店の旦那が店の番頭や手代を集めて酒を振舞った。酒のせいか普段気の利かない手代が口を開いた。
手代:「この家を七福神が取り巻いて・・」
旦那:「オッ、嬉しいことを言うね。さっ、その続きは・・」
手代:「貧乏神の逃げるところなし」

江戸時代の七福神巡りは、谷中七福神参り、向島七福神参り、山の手七福神参りの3コースが確認できる。文化文政時代には、早い春と幸運を求めて郊外の七福神を巡ったのである。また、江戸の神社仏閣は行楽地と重なり、しだいに江戸の名所として多くの出版物によって紹介されたことにより、江戸の人たちばかりではなく、地方から来た人びとの江戸巡りを盛んにさせたようだ。3コースのうちの谷中と向島のお参りコースは現在と同じようだ。
現在の七福神巡りは、山川出版社の『東京下町散歩25コース』に手頃な案内がある。都立の高校の先生をしているNさんがお仲間と書き上げた懇切丁寧なガイドブックで、下町のミシェランともいえるものだ。その第19コースが『七福神巡り』となっていて、深川、日本橋、谷中、下谷、隅田川、亀戸の6コースが紹介されている。

まずは深川七福神巡りだが、都営地下鉄の森下駅の近くにある深川明神宮の寿老人から、門前仲町の富岡八幡宮の恵比寿までのコースになる。森下駅から清澄通りを背骨に、肋骨を右へ行ったり左へ行ったりして門前仲町まで、下町風情を楽しみながら南下することになる。このコースには、芭蕉記念館、清澄庭園、深川江戸資料館などもあり、コース設定は2時間半となっているが、七福神を巡るだけの時間と思いたい。さらに、森下や門前仲町の界隈は粋な居酒屋の宝庫でもあり、当然そのお時間も考慮して掛かりたいものだ。

次は、日本橋七福神巡りだ。東京メトロの人形町駅界隈をぐるっと周回するコースで、中心は何と言っても水天宮様だ。ここは弁財天で安産の神様として有名なところだ。お腹の大きな女性の姿も見え、周辺はマタニティや出産用品のお店も多い。江戸の粋人大田蜀山人が、「恐れ入谷の鬼子母神、そうで有馬の水天宮」と言ったそうだが、少子化対策が叫ばれている昨今を見越したか、安産と子育てをセットにして戯れ言葉を作るあたり、江戸の粋人は本当に洒落ていたんだな。人形町も言わずと知れたグルメ街、洋食屋やお寿司屋、鳥にスキヤキ、そして洒落たビストロ、さらに人形焼などお土産にも事欠かかない。

3つ目は谷中の七福神だ。これは上野駅から歩いて不忍池にある弁天堂から始まり、田端駅まで北上するコースだ。静かな佇まいが楽しめるが、木々が多く気持ちも癒されることだろう。このへんは高校時代のテリトリーだったので懐かしいが、弁天堂に妙な感覚が残っている。まず、この弁天様は芸事の神様らしくお堂の横に大きな石の琵琶がある。この琵琶に使い古した三味線のバチなどを納めておくと腕が上がるということらしい。また、弁天様につきものは蛇で、巳成金と言って巳の日などが縁日になっていた。上野の周辺は商人や客商売が多く、巳成金は大繁昌だった。それだけではなく妙な色気を感じてならなかったのだ。芸事、お金に2つからでは、到底言いようのない女ッ気プンプンの神様だった。

4つ目は下谷だ。小さいころ住んでいたのだが、ほとんど知らないものばかりで意表を突かれた。JRの鶯谷駅から東京メトロ日比谷線の三ノ輪駅までのコースだ。その2つ目が真源寺、朝顔市で知られた入谷の鬼子母神である。このお寺が寿老人とは何度も行っているくせに知らぬとは恥ずかしかった。コースの前半は根岸のグルメ街があり、後半は樋口一葉記念館に立ち寄ることもできる。もっとも少し勢いつければ千束3丁目、吉原だ。

5つ目の隅田川七福神めぐりは、谷中と同様、江戸時代に向島七福神と呼ばれていたものと同じと思われる。東武線の鐘ヶ淵駅から隅田川沿いに南下して、同じく東部線の業平橋駅までのコースだ。江戸は文化年間、文人墨客の間で愛されたお参りのコースだったそうだ。今でも墨田公園の桜が隅田川の両岸で楽しめるので、そろそろお奨めというか、人出が凄いことになりそうなコースである。長命寺の桜餅、言問い団子など、眼福のみならず、満腹も期待できそうだ。

最後は、亀戸七福神巡りである。JRの亀戸駅から北へ向かうと蔵前橋通りに出るが、その蔵前橋通りとその北の北十間川の間にある七福神だ。恥ずかしながらこのコースの神社仏閣にはひとつも行ったことがないが、地図を見た限りではコンパクトにまとまっていて歩きやすそうである。コースの途中にかの有名な亀戸天神があるが、藤の季節、例年は5月の初めだが今年は自信がないが、その季節には多くの人で賑わう。亀井のスイーツといえば船橋屋、ここのくず餅は絶品といえよう。

さて、調子に乗って、書きまくってしまったようだが、6つのコースが登場した。あとひとつ、近所のでも、自分のお気に入りでも、手持ちがある方はそのまま加えていただき、ない方はコースを新設されると7コースになる。七福神巡りが7コース、七が重なって良い塩梅だ。
規制の厳しかった江戸庶民は、信仰にかこつけてささやかな物見遊山を楽しんでいたのだろう。


06:00:00 | datesui | |
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