Complete text -- "#15.最初の関心"

06 March

#15.最初の関心

絵を見ることが好きなのだが、絵画への関心の最初は、ご多分に漏れず印象派のあたりから始まった。モネやルノアールなどを見ていて、スーラの『グランド・ジャット島の日曜日の午後』の点描に眼が行ったとき、これならオレでも思ってしまった。スーラが考えに考え抜いた点描であるのに、座標軸上に機械的に色を置いていく単純な作業に思えて、誰でもできると感じてしまったのだ。実際、やってみると難しいのなんの、普通に書いた方が簡単だった。そればかりか、スーラの作品を調べると輪郭線のないデッサンなど、単に作業で済むようなことはひとつもなかった。
20世紀も終りの1998年、俗にシカゴ美術館と呼ばれているアート・インステテュート・オブ・シカゴに行く機会を得た。その205号室に『グランド・ジャット島の日曜日の午後』があるのだ。本物は現地へ行かなくては見ることはできないが、この本物は普通の本物ではなく門外不出なので、現地へ来なければ絶対に見ることはできない本物なのだ。その思いで入館して、205号室に息を切らすように直行し、対面した。正面に据えられたこの作品は、長年の願いが叶った至福感からか、神々しくさえ感じられられた。
しばらく見入っていたが、ふと周りに眼をやってビックリした。左の壁にはピカソの『老いたギター弾き』、青の時代の傑作だ。右の壁にはゴッホの『アルルの寝室』とロートレックの『ムーラン・ルージュにて』、そして、死角になってしまう手前の壁にはモディリアニの『リップシッツ夫妻の肖像』と、これだけで何十万人も集められる展覧会が開けるだろうし、オークションに掛かったらいくらの値がつくのだろうと、下世話な妄想を巡らせてしまった。
再び、中央の壁に眼を戻すと、たて2m、よこ3mもあろうこの作品は、信じられないほどの精緻さの点描で埋め尽くされている。緻密な構想による構図決め、夥しい習作を重ねての大作は、ひとつの点たりとも疎かにしない集中力はスーラの生命力を搾り取った。スーラはこの作品の完成の5年後、力尽きて他界するが、享年31歳であった。夭逝は何をもってしても不遇であるが、早来ごときに関心を持たれること自体、不遇の上塗りだ。


06:00:00 | datesui | |
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