Complete text -- "#20.抽斗の中から"
13 March
#20.抽斗の中から
抽斗の中を探っていたら、妙なものが2つ出てきた。内用薬と書かれた薬の袋と免許証の束だ。これを探すために抽斗を開けた訳ではないのだが、お恥かしいことに肝心の探し物が何だったか忘れてしまった。老化現象と言ってしまえばそれまでだが、安全に関わることが起きないようにしておきたい。内用薬の袋からはアルジオンという薬が出てきた。ご存知の方も多いと思われるが、抗アレルギー剤、つまり花粉症の薬だ。10年ほど前、誰かが窓を開けたときクシャミをした。「花粉症ですか」と言われて、そうかと思っていたら本当に花粉症になってしまったのだ。それまで花粉症は意識したこともなかったのだが、その後花粉症は年々ひどくなり、医者に相談を重ねた。4年前からアルジオンを年明けから1か月飲むと、その後はなんとか乗り切れることがわかり、対処法は獲得できた。だが、ここまで来れば完治できそうな気になり、大した訳もなく花粉症になったのだから、その逆もあるだろうと思った。そこで、2年前「完治宣言」を密かにしてみたところ、なんとなく治ったようだった。さすがに去年の今ごろ箱根に出掛けたときは、眼はショボショボ、クシャミの連発だったが、それ以外は大丈夫だった。「病は気から」ということで、お医者さまには申し訳ないが、2年前処方してもらったが飲まなかったアルジオンだ。
もうひとつは「ガス溶接技能講習修了証」だ。ガス溶接は、酸素と水素のボンベに繋いだバーナーの青白い炎で、鉄材を切ったり接いだりするものだ。講習は3日間の講義と実技試験で、講義は聞くだけなので簡単だが、実技は一夜漬けの練習では身につくものではなかった。試験当日、不安だらけのまま順番が近づいてくる。いよいよ次になった。試験は厚さ1cm幅10cmほどの鉄板を溶断するのだが、厚さに応じてバーナーの火加減と動かす速さが決め手になる。バーナーの炎が弱く動きが速すぎれば溶断できないし、強すぎたり遅すぎたりすれば余計な部分まで鉄板が溶けてしまう。前のヤツの実技を見ていたら、すごくうまいのだ。一気に真っ直ぐ。そのお手前の見事なこと、合格間違いなしと思ったら、「オイ、お前どこの事業所だ。無免許でやってたろう。」と試験官からお叱りがあった。お叱りのあとの嫌な雰囲気での実技試験だが、全くうまくいかない。バーナーの炎の調節もできなければ、スムーズに動かない。汗だくになってやっと溶断できたが、ギザギザで汚いこと、見るのも恥ずかしかった。試験官から何を言われるかと思っていたら、「免許とってからが練習だからな」と言われた。全員の実技試験が終り、合否の発表があった。なんと合格だった。あの達人はというと、別室で事情を聞かれ、厳重注意の上の合格だった。後にも先にも「ヘタだから合格」という試験は初めてだった。
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