Archive for April 2007

24 April

#241.至福のとき

最近見た2つの映画で同じような場面があった。『今宵、フィッツジェラルド劇場で』と『ブラックブック』での出来事だ。ともにデュエットで歌を歌うのだが、即興でハモるという場面だった。いわゆるハモる方は、相手のソロシンガーの口を見て、合わせていく訳だが、両方ともなかなかの芸達者ぶりで、ハモリ自体も雰囲気も素晴らしい出来だった。

即興でのハモりは、チョットやると病み付きになるほど楽しく、これがもとでバンドも始まるのだ。言ってみれば、ザ・ピーナッツの『恋のバカンス』のノリで歌うようなことだが、これがハマッタりすると本当に楽しい。特に、3度でハモれるようになると、カラオケでも始めることになり、初めての曲でも何でもハモりたくなるのだ。そんな馬鹿な仲間がスナックで顔を会わせると、ジャンケンまでしてパートの取り合いをすることになる。もちろん勝った方がハモる方で、負けた方は仕方なくソロになる。そうなるとハモる方は威勢がいい、とにかく失敗しても当たり前、上手くいけば儲けモノなので思いっきりハモれる。対してソロは大変だ。正確にしっかり歌うことは当然、個性を殺して歌わなくてはいけない。フェイクなんてもっての外、ただひたすら黙々と歌うことになる。そして、終れば評価や関心全てハモる方で、ソロは全くの縁の下の力持ちにされてしまうのだ。昔、学校で音楽の時間に歌を歌うときは、確か主旋律担当は目立つのが相場だったのだが、ここではどっこい立場が逆転をしているところがおもしろい。

三味線の芸がそんな感じらしい。主旋律はお弟子さんが本手と言って、一音一音丁寧に間違いなく弾いていくが、そこへお師匠さんが対抗旋律を流したり、また装飾音を奏でたりするのである。これを派手というらしいが、三味線の醍醐味だそうで、個性の発揮できる場でもあるのだろう。
とにかく即興で気心しれた仲間と気持ちを合わすのだが、これって結構贅沢なことかもしれない。


06:00:00 | datesui | No comments |

05 April

#230.この肌寒さ

今年の冬は異常なほどの暖冬だった。ところが4月に入り、桜も咲いているのにお寒い日がつづいていて、特に昨日は東京でも雪が降ったそうである。4月といえば良い陽気のはずだ。中国の古人も漢詩にその爽やかさを詠っている。

 四月清和雨乍晴   四月清和、雨たちまち晴る
 南山当戸転分明   南山、戸に当って、うたた分明
 更無柳絮因風起   更に、柳絮(りゅうじょ)の風によって起きるなく
 惟有葵花向日傾   ただ、葵花の日に向かって傾くあり

宋の司馬光の『初夏』という詩である。4月は初夏だそうだが、黄砂の季節でもある。その黄砂でもうもうとしている中、雨がやんだ。戸の真向かいの南山がくっきり見える。更に、風が白い柳の実を飛ばすこともなく。ただ、向日葵の花がお日さまに向かっているようである。
という、初夏の雨上がりの清清しい季節描写である。それなのに今の日本の4月は、なんでこんなに寒いのだ。こんな時に限って外出になったりするので、着ていくものも、羽織るものもなくて全く閉口してしまう。


06:00:00 | datesui | No comments |

02 April

#228.××力

小泉前総理が鈍感力も必要と言ったが、相変わらず言葉の使い回しは見事だ。鈍感力は小泉さんの作品ではないが、この言葉をまさにこの場面というところでの選択の妙はまだまだ冴えている。また、鈍感力自体も単に鈍感と言ったのでは、本当に鈍感としか聞こえなくなってしまうが、力をつけることによって鈍感だからこそ持てる力のような魅力さえます言葉に変身するようだ。という訳か、○○力、××力、という力がつく言葉がこのところ氾濫しているが、やはり○○や××には普通の言葉ではおもしろくないようだ。

学習塾の広告にある理解力や回答力では当たり前の気がするし、質問力、段取り力でも少しはおもしろくはなったが、まだ意表をつかれた感じはない。そこでか、力化力という言葉に力をつけることに長けた斉藤孝は、恋愛力なるものまで打ち出したが、おもしろさはあるもののマトモ感は拭えない。決め手は鈍感力のような力にならないようなイメージの言葉に「力」をつけることなのだろう。予備校の宣伝文句なら、そのまま力をつけても仕方ないと思われるものもあるが、そこは言葉の妙を大切していただいて、意外性のある組み合わせに限って欲しいものである。

そこで、この手の言葉を遡ってみると、1998年の赤瀬川源平の『老人力』が断然光っている。力の衰えた象徴のような老人に「力」をつけたことによるインパクトは半端ではなかった。それ以後、なんとか力というものが雨後の筍のように現われた気がする。マイナスのイメージの言葉に「力」をつける、さらに「何だ?」と思わせるものがなければいけない。そのような意味で、鈍感力は「何だ?」少し弱くランクが低かったのだが、小泉さんが絶妙の場で使用したため、一躍時代の寵児になってしまった訳だ。


06:00:00 | datesui | No comments |