Archive for December 2007

29 December

#328.今年の書棚

5月の出来事は映画とミュージアムの月課が止まり、発信活動としての『伊達酔』も止まった。たかがパソコンが壊れたぐらいだが、少しは積極的に思えることが全て止まってしまったようだ。ところが意外にも普段なら読まないような本を読んでいたのだ。政治学と社会学の本だった。

理系だったこともあり文系への憧れは40年以上だが、文系の文系たる人文科学へは早くから親しむことができた。だが、文系のもう一方の存在である社会科学にはなかなか触手が伸びなかった。経済学や法学は仕事でも必要な場面があり、そのついでに少しずつだが勉強する機会もあった。だが、その先の政治学や社会学になると遠い存在のままの状態が続いていた。なにせ経済学や法学は経済や法律のことのお勉強とわかるが、政治学や社会学はアウトラインや内容の構成などイメージが全く湧かなかったからだ。

それが、本も読む気が失せていたころ本屋の書棚で『現代政治学』を見つけたのがことの始まりだ。とは言っても有斐閣アルマで、B6版250ページという手頃な入門書だ。目次を見て政治学の構成がわかったようで、急に読む気になった。わかりやすい書き方をされた良書だったこともあり、思いのほか高い関心を維持しながら読み終えることができた。特に政治体制と政治文化には大いに興味が湧き、また今の世界の秩序がウエストファリア・システムのなごりで、1648年以来の体制であることは知っていてもよかったことだった。

すると社会学の本にも目が移り、岩波新書の見田宗介著『社会学入門』を読むことになった。読んでみて感じたことだが、社会学は物事を横断的に眺める学問のように見えた。哲学で、経済学で、文学で、扱われた共通の事柄について人間のつながりをもとに見渡してみるように思えた。だから、社会を捉える手法は、短歌の読み解きが出てきたり、ロジスティック・カーブと呼ばれるS字型の成長曲線が出てきたりで、私にとっては退屈することなく楽しく読み進めた。逆に、このへんが社会学のアウトラインがはっきりしないようにも見えたのかも知れない。
なかでも興味が湧いたのが、時代を代表する小説として、村上隆『限りなく透明に近いブルー』、田中康夫『なんとなくクリスタル』、村上春樹『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』、吉本ばなな『キッチン』を挙げていて、時代とともに色がだんだん薄くなり、最後は白くなるということだ。実は、この考察は自分でも考えていたので、そのまま共感や共鳴ができたが、先を越された感もあり若干悔しい気持もした。ただ私の考えは、このあと江國香織の『デューク』が加わるもので、感覚がより透明なものに流れてその極大に達するのが『デューク』と思っていたのである。

ちょうど良い機会だったので、これらを読み返してみた。さすがに時代を代表する作品だ。読み返してみると新たな感動さえ湧いてくる。特に、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』はその間にボルヘスを読んでいたこともあり、ボルヘスの幻想的な感じを不思議な共鳴体として楽しむことができた。
さらに、村上隆の勢いで石原慎太郎『太陽の季節』や大江健三郎『性的人間』までも再読することができ、血の巡りが良くなったような気さえした。


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