Archive for January 2008

19 January

#341.伝統技と日本の心

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一昨年の秋に心臓の手術をしたことによる術後の診察で、築地の病院へ行った後の帰り道は少しだけ脚を延ばしてみた。東銀座の松竹スクエアのところに来たとき、この雪つりに出会った。積雪の重みから木の枝を守るための施しだが、東京では雪は降らないだろうからオブジェとしての役割になるのだろう。それにしても見事な造形美である。しかも荒縄一本だけで特別な保持具の使用は一切ない。ハードウエアの使用を最小限にして、ソフトウエアで対処していく日本の優れた伝統芸が表れている。

日本のソフトウエア優位を示す縄一本という伝統芸として捕縄術が知られている。欧米なら手錠という専用のハードウエアを使うが、日本では縄一本で縛り上げる。戦国時代に「大将縄」「下郎縄」といった身分を分けた縛り方が現れ、その後用途に応じた縛り方のバリエーションが発達したようだ。江戸時代には市中引き回しのような刑罰があり様式美の要素も入ってきたと思われる。さらに屈折した官能美としての発展がSMの世界に存在しているのはご存知のことだろう。とにかく縄一本、用を足すことはもとより、見事な様式美も醸し出しているのは日本の文化として胸を張りたい。さらに水引のように、同じ祝儀でも婚礼用と一般用は結び方が変わるように、結び目に記号的な意味まで付加されている。用から美、さらには形而上的な意味への発展がみられるのが日本の伝統芸の心なのである。

西洋でもロープ術といった技はある。ボーイスカウトなどで伝えられているが、数千種類の結び方があるそうで、用途別の分類と体系立ては見事である。ロープで梯子を作るとか、西部劇に出てくる一端を引けばすぐに解ける馬のつなぎ方とか、日本でもお馴染みの引っ張っても輪が縮まらないもやい結びなどがあるが、2本の紐をつなぐとき、互いの紐に結びつける方法は滑りやすい紐等に極めて有効だ。空中ブランコの曲芸師が手をつなぐときの互いの手首を握り合う要領で、簡単に結べて解けにくく利用価値は高いものがある。だが、これらの技は、雪つりなどと比べてお世辞にも美しいとはいいがたい。彼らの更なる付加価値は「早く結ぶ」ことで、その心はやはり実用一辺倒であるらしい。

用の用だけに注目してハードウエアとして専用化すれば、使いやすくはなるだろう。手錠などは大した熟練なども必要とせず用を足すことが可能である。
たしかにソフトウエアでの対応は職人技としての熟練が必要だろう。その代り、芸術作品にも匹敵する美しさや意思疎通のための意味という方句への発展はソフトウエアならではの所産だろう。


18:43:00 | datesui | No comments |

14 January

#336.人気の秘密は

日課の散歩は1年を過ぎ、少しずつ行動範囲が広がっている。まず、歩くのに慣れてきたので少しでも距離を延ばしたくなることだ。以前は20分も歩くと帰りのコースを考えたりしたのだが、今は3、40分経っても家から離れる方向に進んでいるようだ。もう一つは、変わった景色を見ようという気持ちになってきたことだ。隣の町、もう一つ隣の町、というように踏破先が延びている。前回はそこまでだったが、今日はここまで来たぞというようなことだ。ちょうど小さい頃の冒険や探検といった気持なのかもしれない。

そんな気持ちで今日も散歩をした訳で、深川、木場を歩いたが、白河や清澄まで足を延ばした。すると、行く先々で同じような人たちにめぐり会うのだ。若干お年を召されたカップルやこれまた熟年女性の2人連れや数人のグループという感じである。手には白い封筒を持っている人が多い。

すれ違う人たちが多いので会話は聞き取れなかったが、どうやら深川七福神めぐりらしい。そういえば、通ってきた道には「深川七福神」と書かれたオレンジ色の幟が立っているところがあり、その近所には七福神の祠があるらしい。七つの祠はかなり範囲に広がっているので、お年寄りの脚では結構な負荷になると思うのだが、人気があるらしくかなりの人が歩いている。

今まで見向きもされなかったと思うが、急に人気が出たのはどうしてだろう。オレンジ色の幟を立てたぐらいで人気が出るならお安いものなのだが、商売柄その訳を考えたくなってしまうので、深川の方には行かなければ良かったと後悔している。


18:32:49 | datesui | No comments |