Archive for May 2009

29 May

#564.消去法で2冠達成

1780年にイギリスで始まったダービーは、競馬のある国ではほとんどダービーが実施されている。日本も1932年に開催され、以後、戦争で2回ほど行われなかったが、綿々と続き今回は数えて76回である。過去、名勝負ありドラマありのダービーも、近々外国調教馬にも門戸が開放されるようで、日本の中で仲良く行われるダービーも見納めになるだろう。
さて、18頭が元気よく出てきた。語り草のひとつぐらいは残るダービーを期待するものだが、まずは無事に走り終わることを願っている。

【 Wscランキング:ダービー 】
◆Wsc: 67.7 アンライバルド     R= 45、 RR= 74、 RT= 44、 D= 2.2、 A= -.8、 H= 3
◆Wsc: 66.3 ジョーカプチーノ   R= 24、 RR= 77、 RT= 66、 D= 1.1、 A= 1、 H= .2
◆Wsc: 65.0 アプレザンレーヴ   R= 48、 RR= 65、 RT= 53、 D= 1.3、 A= -.7、 H= 4
◆Wsc: 64.9 トライアンフマーチ  R= 46、 RR= 73、 RT= 53、 D= .4、 A= .3、 H= 3.3
◆Wsc: 56.9 マッハヴェロシティ  R= 41、 RR= 68、 RT= 46、 D= -.6、 A= .3、 H= 1.5
以上がWsc55を超えた推奨馬
◇Wsc: 50.9 ブレイクランアウト  R= 30、 RR= 60、 RT= 55、 D= -1.4、 A= -.3、 H= 3.1
◇Wsc: 49.7 セイウンワンダー   R= 36、 RR= 64、 RT= 42、 D= -2.3、 A= -.4、 H= 2.1
◇Wsc: 48.5 ロジユニヴァース   R= 39、 RR= 57、 RT= 38、 D= -.1、 A= 1、 H= -.4
◇Wsc: 48.3 アイアンルック    R= 29、 RR= 61、 RT= 53、 D= -2.1、 A= -.7、 H= 3.8
◇Wsc: 48.0 トップカミング    R= 35、 RR= 63、 RT= 39、 D= -1.6、 A= -.5、 H= 2
◇Wsc: 46.4 アントニオバローズ  R= 34、 RR= 57、 RT= 55、 D= -2.6、 A= .8、 H= -.1
◇Wsc: 45.4 ケイアイライジン   R= 35、 RR= 59、 RT= 37、 D= -1.2、 A= -.3、 H= 2.5
◇Wsc: 45.3 ナカヤマフェスタ   R= 38、 RR= 57、 RT= 44、 D= -2.3、 A= .4、 H= .3
◇Wsc: 43.6 リーチザクラウン   R= 32、 RR= 53、 RT= 42、 D= -1.3、 A= 1.6、 H= -2.4
◇Wsc: 43.2 シェーンヴァルト   R= 34、 RR= 61、 RT= 51、 D= -4.6、 A= -.6、 H= 2.8
◇Wsc: 41.5 フィフスペトル    R= 31、 RR= 64、 RT= 49、 D= -4.8、 A= -.1、 H= 1.7
◇Wsc: 36.0 ゴールデンチケット  R= 29、 RR= 51、 RT= 51、 D= -4、 A= 2.6、 H= -2.9
◇Wsc: 32.5 アーリーロブスト   R= 36、 RR= 52、 RT= 33、 D= -3.9、 A= 1.7、 H= -1.5

   ・Wsc  :ウィニング・スコア→上位入着の可能性を示す総合指標で以下の指標から算出
   ・Rsc  :レースの実績→過去1年6か月を遡ったレースの実績を示す
   ・RRsc :最近の実績→6か月以内の直近3レースの実績を示す
   ・RTsc :タイム→最近のレースでの走破タイムを示すスコア
   ・DfWL :勝っぷり→勝った馬はどれだけ突き放したか、負けた馬はどこまで粘ったかを示す
   ・Asc :先行力→先行した実績を示すスコアで、高いほど先行している
   ・Hsc  :末脚→上り3ハロンの馬群の中で相対的に前に出たか後退したかを示す


【 展望 】
この数年のダービーでは特記すべきことが起きている。無敗のダービー馬とか、牝馬の優勝、小倉デビュー馬の優勝などが挙げられるが、NHKマイルカップからの勝馬が2004年と2008年の2回出ていることだ。ローテーション的にキツイとか、マイルからいきなり2400m、というような声は当然あるその中で、5回のうち2回も起きているのだ。今年もジョーカプチーノが該当するが、余興や単なる参加体験とはとても思えないので、予想する側も予定のコースとして検討が必要になる。
この検討を先に済ませば、キングカメハメハとディープスカイが、毎日杯→NHKマイルC→ダービーという路線を踏んでいるの対し、ジョーカプチーノはファルコンS→ニュージーランドT→NHKマイルC→ダービーという路線で、最長距離はダートの1700mというところだ。母の父がフサイチコンコルドなら一発大駈けも考えられるが、その程度の結論だろう。
次は青葉賞組の取捨だが、勝ち馬のアプレザンレーヴは毎日杯3着で、毎日杯優勝のアイアンルックはNHKマイルCでは8着、同じく毎日杯2着のゴールデンチケットは皐月賞11着で、この比較からは青葉賞優勝といえども評価はしにくい。青葉賞2着のマッハヴェロシティは共同通信杯4着で、共同通信杯優勝のブレイクランアウトがNHK9着であったので、これも評価はしづらい。つまるところ青葉賞組も期待薄とならざるをえない。プリンシパルS組は同様の検討で不要なことがわかる。

つまり皐月賞組になる。そこで、ロジユニヴァースの復活があるかということだろう。前回の敗因を何とみるかだが、持ちタイムの低さとするならば今回も無理だろう。皐月賞の前哨戦のタイムは、弥生賞2分03秒5、スプリングS1分50秒8、毎日杯1分48秒0で、概して良くない。だから、1分58秒7というまともなタイムのレースのなった皐月賞では馬脚を露わした馬が出現したわけだ。ロジユニヴァースはリーチザクラウン共々、復活は難しいと言えよう。

結論は、混戦ではあるがアンライバルドの2冠濃厚となる。ただ2着は難しい。ジョーカプチーノ、アプレザンレーヴ、トライアンフマーチ、マッハヴェロシティの4頭はほぼ一線と考えても良さそうだ。ブレイクランアウトぐらいまで触手を伸ばしても良さそうだ。


【 展開 】
明確ではないがレース展開は穏当に収まりそうなレースが予想される。
まずは逃げだが、ゴールデンチケットがその大役を引き受けてくれそうだ。ついで、先行陣だが、アーリーロブスト、リーチザクラウンが続きそうだ。そのあとの集団として、ロジユニヴァース、ジョーカプチーノ、アントニオバローズがひと塊りになり、その後ろにナカヤマフェスタ、マッハヴェロシティ、トライアンフマーチ、フィフスペトルが続くことになる。
中段以降は最後尾まで長く続くことになるが、ケイアイライジン、ブレイクランアウト、セイウンワンダー、トップカミング、シェーンヴァルト、アイアンルック、アプレザンレーヴ、アンライバルドとなって、注目のアンライバルドは最後尾を進むことになる。

レースの中心になるアンライバルドが最後尾にいるので、少しでも色気のある馬はアンライバルドの動向ばかり見ることになる。そこで、前にいてしかも楽に動けそうなロジユニヴァースがレースを掻き回してくれそうだ。結果まで変わるとは思えないが、4角手前での出し抜けなどをかましたら盛り上がるのだが。


11:41:56 | datesui | No comments |

27 May

#563.さすがの書き出し

書き出しについて述べてみたが、古典の名作にはさすがと言わせる書き出しが多い。思いつく有名な作品を少しあげてみる。

? 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す。
? 春は曙。やうやう白くなりゆく、山際少し明りて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。
? いづれの御時にか、女御更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。
? 行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。
? 月日は百代の過客にして行きかふ年も又旅人なり。

ご承知のものが多いと思われる。どれをとっても、齋藤孝の『声に出して読みたい日本語』に出てきそうなものばかりで、毎日のように口ずさんでもいいものだらけだ。
まず、?は平家物語だが、何と言っても格調の高さは抜群で、他の追随を許さないものがある。内容、語彙の選択、そして見事なリズム感。完璧な書き出しだろう。この格調の高さだが、戦記ものであるのでチャンチャンバラバラは当然、色恋沙汰もある中で、最後に大原行幸のところで建礼門院と後白河法皇が重苦しい会話をするところで結末をつけているのは見事だ。相当な知恵の集まりがあったものと思われる。
?は清少納言の枕草子だ。いかにも幕開けという演出が憎い。リヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはこう語った』を思い出せるようだ。
?は言わずと知れた紫式部の源氏物語だ。あの長い作品も意外と平静な一文から始まっているのだが、この文も上下関係を無視した天皇の振舞いが述べられており、行く先の不安を呈しているのだ。源氏の過ちは柏木によって繰返され、源氏は加害者と被害者の双方の立場を味わうことになる。
?は鴨長明の『方丈記』だ。ただ全編を読んでいないので大したことは言えないが、ずうっとこんな調子で最後まで進んで、ただ悩んでいるだけという感じである。無常観と言われるが、無力感を感じてしまう。だが、この書き出しはそれを超えて素晴らしい。
?は松尾芭蕉の『奥の細道』で、これも格調が高く、しかも人生は旅というコンセプトも織り込んである。李白に『春夜桃李園に宴するの序』という小品があるが、その冒頭に「それ天地は万物の逆旅(げきりょ:旅館)にして、光陰は百代の過客なり」というくだりがあり、影響が窺える。源氏物語でも直接表現を避け「いづれの御時」としているが、日本に最も影響のあった白居易の『長恨歌』でも時の皇帝は唐の玄宗であったものを「漢皇」としている。最も影響を受けやすいのが書き出しの部分かもしれない。


11:45:40 | datesui | 2 comments |

25 May

#562.人並みの苦労

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」という川端康成の名作『雪国』の冒頭はあまりにも有名だ。このように名作の冒頭はさすがと思わせるものがあり、読者を入口でしっかりつかまえてしまうようだ。ところが読み出しがいくら良くても読み進むことが難しい作品もある。「木曾路はすべて山の中である。」という書き出しで始まるのは島崎藤村の『夜明け前』だが、この簡明さとは裏腹にこの小説は重厚な文体で、暗く湿った雰囲気が長く続くのである。正直言って、辛くて読むのが嫌になる。何度かトライをしてみたが、未だに読破できない作品のひとつになっている。でも、『夜明け前』にあの冒頭がなかったらどうだろう、だれも見向きもせずに文学史にも残らない作品で終わってしまったのではないかと考えてしまう。

文章を書くとき最大の苦労は書き出しだ。こんな小さなブログの文を書くにも結構大変な思いをしているのだ。最初の三行、これが決まれば、何とか書き進めるのだ。世の作家の先生方も、ひょっとしたら同じような苦労をしていたに違いないと思われる。構想も練られ、登場人物の特徴も設定され、あとは書くだけになっても、最初の背中押しがないと作品の制作に取り掛かれなかっただろう。

PS:『雪国』の冒頭、国境は「くにざかい」と読むそうだ。お恥ずかしいことだが、ずーっと間違ったままの読み方をしていた。

23:41:13 | datesui | No comments |

22 May

#561.相手探し、今度こそ

さて、今度の日曜日はオークスだ。英国でダービーの元になったのが、このオークスだ。第1回ダービーの前年、1779年にオークスが行われた。12代ダービー卿エドワード・スミス・スタンレーが、この年エリザベス・ハミルトンと結婚したとき、新妻の発案で3歳牝馬のレースを開催した。折しもダービー卿はオークスの森と呼ばれる大きな領地を所有していたため、オークスと名付けられた。また、新妻もオークスの花嫁と呼ばれたりもしたことにもよるそうだ。そして、その翌年の1780年、今度は牡馬もということでダービーの開催となった。
クラシックは出走条件に、3歳牝とか3歳牡牝という表記になっている。これは馬匹の改良を目指したもので、次世代へ優秀な血脈を伝えるためのレースと位置付けているからである。現在、セン馬、つまり去勢馬の出走が認められていないのはこのためで、この先もセン馬だけではなくクーロン馬も出走も当然ながら認められないだろう。

【 Wscランキング:オークス 】
◆Wsc: 66.5 ブエナビスタ     R= 34、 RR= 75、 RT= 49、 D= 1.8、 A= -.5、 H= 2.8
◆Wsc: 61.8 レッドディザイア    R= 30、 RR= 73、 RT= 52、 D= .1、 A= -.6、 H= 3.1
◆Wsc: 59.4 デリキットピース   R= 35、 RR= 66、 RT= 44、 D= 1.5、 A= 2.1、 H= .4
◆Wsc: 59.4 ディアジーナ     R= 31、 RR= 72、 RT= 40、 D= 1.1、 A= 1.3、 H= -.3
◆Wsc: 55.9 ブロードストリート  R= 31、 RR= 65、 RT= 42、 D= -.4、 A= -.1、 H= 2.5
以上がWsc55を超えた推奨馬
◇Wsc: 54.8 サクラローズマリー  R= 36、 RR= 64、 RT= 44、 D= -.9、 A= -.3、 H= 2.8
◇Wsc: 54.5 ジェルミナル     R= 29、 RR= 68、 RT= 44、 D= -1.9、 A= -.2、 H= .8
◇Wsc: 53.3 ワイドサファイア   R= 31、 RR= 62、 RT= 41、 D= -.8、 A= -.3、 H= 1.6
◇Wsc: 52.6 ハシッテホシーノ   R= 44、 RR= 54、 RT= 26、 D= .7、 A= 1.6、 H= 1.8
◇Wsc: 52.1 ダノンベルベール   R= 27、 RR= 62、 RT= 47、 D= -2、 A= 0、 H= .9
◇Wsc: 50.1 ルージュバンブー   R= 30、 RR= 63、 RT= 46、 D= -3.7、 A= -.1、 H= .8
◇Wsc: 46.7 ヴィーヴァヴォドカ  R= 25、 RR= 55、 RT= 42、 D= -2.7、 A= 2.3、 H= -1.9
◇Wsc: 46.4 ダイアナバローズ   R= 26、 RR= 51、 RT= 40、 D= -2、 A= .2、 H= .4
◇Wsc: 45.8 ツーデイズノーチス  R= 21、 RR= 50、 RT= 48、 D= -2.5、 A= 0、 H= -.1
◇Wsc: 44.9 フミノイマージン   R= 26、 RR= 51、 RT= 37、 D= -2.1、 A= 1、 H= .7
◇Wsc: 37.4 マイティースルー   R= 21、 RR= 40、 RT= 35、 D= -4.1、 A= -.6、 H= .5
◇Wsc: 30.7 イナズマアマリリス  R= 19、 RR= 37、 RT= 34、 D= -6.7、 A= .4、 H= -.6
◇Wsc: 27.4 パドブレ       R= 16、 RR= 30、 RT= 36、 D= -7.2、 A= -.4、 H= -1.5

   ・Wsc  :ウィニング・スコア→上位入着の可能性を示す総合指標で以下の指標から算出
   ・Rsc  :レースの実績→過去1年6か月を遡ったレースの実績を示す
   ・RRsc :最近の実績→6か月以内の直近3レースの実績を示す
   ・RTsc :タイム→最近のレースでの走破タイムを示すスコア
   ・DfWL :勝っぷり→勝った馬はどれだけ突き放したか、負けた馬はどこまで粘ったかを示す
   ・Asc :先行力→先行した実績を示すスコアで、高いほど先行している
   ・Hsc  :末脚→上り3ハロンの馬群の中で相対的に前に出たか後退したかを示す


【 展望 】
先週のウオッカ同様、ブエナビスタの独走も考えられそうな状況だ。ブエナビスタのスコアは他を圧倒していて頭は堅いと思われる。またしても相手探しになる訳だが、このところ探索が意外と苦戦をしている。
ブエナビスタのあとに続くのが、レッドディザイア、デリキットピース、ディアジーナの3頭で、少し差があってブロードストリートとなっている。この4頭はさすがにWscも高く、他のスコアの内容も良く、やはり外せない存在だ。このあとはWscが55以下で、評価は下がるところだ。だが、このところの相手探しの状況から、少しWscの下の方まで見据えておく必要があるようだ。
そこで苦慮の抜擢となると最近のスコアの良いジェルミナルとなるが、新鮮味がないのがどうも不満だで、このレースも特別な抜擢は不要なようだ。


【 展開 】
逃げ馬がいる。2枠4番のヴィーヴァヴォドカだ、好枠を引いたのでレースを引っ張ってくれそうだ。これで妙なスローペースに嵌る心配はなくなった。これについていくのが、デリキットピースで、楽なレースができそうだ。そして先行グループは、ハシッテホシーノ、ディアジーナ、フミノイマージンとなる。中段は大きな集団ができ、イナズマアマリリス、ダイアナバローズ、ツーデイズノーチス、ダノンベルベール、ルージュバンブー、ブロードストリート、ジェルミナルが占めることになる。後方は、サクラローズマリー、ワイドサファイア、パドブレ、ブエナビスタ、マイティースルー、レッドディザイアの6頭が控える展開になる。

ペースは早くも遅くもならない、平均ペースだ。ケヤキのあたりまで、実に淡々と進むだろう。ブエナビスタがどこで出て来るかだが、東京の直線は長いので、好位には上がるものの仕掛けは直線の坂上だろう。ただ、好位に上がるのに手間取ったりロスしたり、また、うまく好位に上がりきれないときは、前にいる馬に勝機が来そうだ。デリキットピースやディアジーナもおもしろそうだが、気楽に逃げられるヴィーヴァヴォドカなどが候補に入りそうだ。


01:00:11 | datesui | No comments |

20 May

#560.隅田川七福神巡り? −補遺・梅若伝説下−

梅若伝説の続きを、謡曲『隅田川』で辿ろう。梅若丸の母、妙亀というのだが、妙亀は近づけば逃げてしまう梅若丸の亡霊を追い続けることになる。だが、わが子の霊は白みゆく明けの空とともに立ち消えていく。
「東雲(しののめ)の空もほのぼのと明けぬれば、跡絶えてわが子と見えし塚の上の、草茫々として、ただ、しるしばかりの浅茅ヶ原となるこそあわれなりけり」と、夜が明ければ塚の上は野草がはびこり、浅茅ヶ原が広がっているだけで、実に胸打つことだ。
能では狂女の姿をしたシテ役が呆然と立ち尽くすところが最大の見せ場になる。狂女の姿で立ち尽くす、これがすべてを表す象徴美で、能の真髄だ。ところが、能の『隅田川』を最初に観たときは、クライマックスに掛る前のところで不覚にも眠ってしまい、ハッと気がついたらシテ役が呆然と立ち尽くしているところだった。
さて、『隅田川』では呆然と立ち尽くして終るが、梅若伝説での妙亀はこのあと浅茅ヶ原にある鏡ヶ池に身を投げてしまう。これも里人たちにより手厚く葬られ、塚を立てて後世に語り伝えたという。

そこで、今度は妙亀の塚、妙亀塚へのお参りとなる。妙亀塚は梅若塚からかなり離れたところにある。隅田川の対岸、白髭橋を渡った先だ。ちょうど白髭橋を中心にして梅若塚の点対称の位置にある。美しさと力強さのバランスが絶妙の変形アーチの白髭橋を渡り、2つ目の信号を左折してバス通りに入る。そこから300mほど南に進んだところに妙亀塚がある。この界隈はその昔山谷と呼ばれたあたりの近くだが、当然なことながら面影はない。路地の突き当りに妙亀塚があるが、思いのほか立派だった。妙亀塚を見に来る人は少ないようで、見物客などはいない。だが、妙亀塚の境内の中で昼間から酒を飲んで赤い顔をしている人が3人ほどいて、山谷の面影は健在かと思わせた。

梅若塚と妙亀塚は、直線距離で1km以上、歩くと20分もかかるほど離れている。いろいろな案内書を見ても、梅若塚と妙亀塚をセットで案内してことは少ない。しかも梅若塚は墨田区で妙亀塚は台東区なので、区の観光案内パンフでも別々になりやすい。梅若伝説も梅若丸だけでは話にならないどころか、能の『隅田川』では狂女の妙亀が主役なのだ。少々面倒でもセットで案内して欲しいものだ。


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妙亀塚は妙亀塚公園という小さな公園になっている。そこで昼間から酒を呷っている御仁がいるわけだが、写真に入らないように撮影するのが少し面倒だった。右は白髭橋。男性的だが優美なフォルムが大好きだ。藤牧義夫の版画、『隅田川絵巻』に登場する白髭橋は精緻な線で描写され、この橋の魅力を最大限に引き出したものだろう。残念なことに、藤牧義夫は貧困と過労でノイローゼになり24歳で失踪し、そのまま亡くなったと思われる。


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