Archive for 04 March 2009
04 March
#531.もうひとつの選択肢
テレビをボーっと見ていたら見慣れない景色が映った。ナレーションを聞くとトルコのアンテキアという街の様子だった。アンテキアはトルコ東南部の地中海に面した街で、古くはアンティオキアと呼ばれたとの説明があった。ああそうか、ローマの五本山のあったところかと思ったが、テレビを見ていると思いもよらぬことが起きていた。このアンテキアでは実に多くの宗教を信ずる人たちが平和裏に共存して暮らしているとのことだ。トルコであるのでイスラム教は当然だが、ユダヤ教徒、キリスト教徒も共に暮らしている。さらにキリストはキリスト教でカトリック、ギリシア正教、アルメニア使徒教会などがあり、イスラム教徒もスンニ派だけではなく他派との共存がなされている。画面を見て驚いたのは、お互いの祝祭を祝い合うことだ。キリスト教の司祭がイスラムの司祭に祝辞を述べ、イスラム教徒が祝日にキリスト教徒に施しをしているのである。いがみ合うのが当たり前と思われていたキリスト・イスラム・ユダヤなどの宗教が仲良く共存している姿を見ると、共存の力がどこかにあるのに違いないと考えたくなる。
そこで、取材者が各宗教の信徒を集めて話を聞こうとしたら、誰がどの信徒であるかラベルを貼ることを避けることで共存が保たれてきたので、そのような形で集めることは不可能だということだった。つまりアンテキアに住む人はみんなアンテキアの人ということで、パン屋さんはアルメニア人だとか、金物屋さんはユダヤ教だとは言わないそうだ。
江戸の長屋では身の上話などお互い余計なことは聞かなかったそうで、それが寄せ集めの江戸の町人の調和を保っていたのだ。まずは仲良く、生まれ出どころは二の次で良い、という知恵が共存を支えたのだろう。去年の暮に観た映画『地球が静止する日』では、アメリカ人の男の子が宇宙人と対峙したときの判断で「僕たち、逃げるの、戦うの」と尋ねていたのが印象的だった。地球を代表するつもりの彼らには「仲良くする」という選択肢はないらしい。
23:10:05 |
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