Complete text -- "#341.伝統技と日本の心"

19 January

#341.伝統技と日本の心

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一昨年の秋に心臓の手術をしたことによる術後の診察で、築地の病院へ行った後の帰り道は少しだけ脚を延ばしてみた。東銀座の松竹スクエアのところに来たとき、この雪つりに出会った。積雪の重みから木の枝を守るための施しだが、東京では雪は降らないだろうからオブジェとしての役割になるのだろう。それにしても見事な造形美である。しかも荒縄一本だけで特別な保持具の使用は一切ない。ハードウエアの使用を最小限にして、ソフトウエアで対処していく日本の優れた伝統芸が表れている。

日本のソフトウエア優位を示す縄一本という伝統芸として捕縄術が知られている。欧米なら手錠という専用のハードウエアを使うが、日本では縄一本で縛り上げる。戦国時代に「大将縄」「下郎縄」といった身分を分けた縛り方が現れ、その後用途に応じた縛り方のバリエーションが発達したようだ。江戸時代には市中引き回しのような刑罰があり様式美の要素も入ってきたと思われる。さらに屈折した官能美としての発展がSMの世界に存在しているのはご存知のことだろう。とにかく縄一本、用を足すことはもとより、見事な様式美も醸し出しているのは日本の文化として胸を張りたい。さらに水引のように、同じ祝儀でも婚礼用と一般用は結び方が変わるように、結び目に記号的な意味まで付加されている。用から美、さらには形而上的な意味への発展がみられるのが日本の伝統芸の心なのである。

西洋でもロープ術といった技はある。ボーイスカウトなどで伝えられているが、数千種類の結び方があるそうで、用途別の分類と体系立ては見事である。ロープで梯子を作るとか、西部劇に出てくる一端を引けばすぐに解ける馬のつなぎ方とか、日本でもお馴染みの引っ張っても輪が縮まらないもやい結びなどがあるが、2本の紐をつなぐとき、互いの紐に結びつける方法は滑りやすい紐等に極めて有効だ。空中ブランコの曲芸師が手をつなぐときの互いの手首を握り合う要領で、簡単に結べて解けにくく利用価値は高いものがある。だが、これらの技は、雪つりなどと比べてお世辞にも美しいとはいいがたい。彼らの更なる付加価値は「早く結ぶ」ことで、その心はやはり実用一辺倒であるらしい。

用の用だけに注目してハードウエアとして専用化すれば、使いやすくはなるだろう。手錠などは大した熟練なども必要とせず用を足すことが可能である。
たしかにソフトウエアでの対応は職人技としての熟練が必要だろう。その代り、芸術作品にも匹敵する美しさや意思疎通のための意味という方句への発展はソフトウエアならではの所産だろう。


18:43:00 | datesui | |
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