Complete text -- "#366.頭が下がる思い"
12 March
#366.頭が下がる思い
少女マンガの歴史を語る企画展が川崎市市民ミュージアムで開催されていた。以前、日本漫画映画の全貌という企画展を観て感動したので、これもと思って出掛けてみた。東急東横線の武蔵小杉駅を降りて、バスに乗った方が早いし、楽だし、その上わかりやすいのだが、歩いてみることにした。歩数計の記録をつけるようになってから、歩数稼ぎが頭から離れず、何かにつけ歩くことを第一義としてしまうのだ。初めての道なので遠回りをしたりしてこともあり20分以上歩いただろうか、どうにか目的の市民ミュージアムに辿り着いた。
川崎市市民ミュージアム。川崎市中原区、等々力緑地にある。
思った通り、立派な建物だった。入口前の広場には、鉄人28号風の大きなオブジェまであり、地方自治体のハコモノというイメージは損なっていなかった。中へ入るとボランティアの方だろうか、インフォーメーションの係の方から品の良い対応で切符売場や会場の案内をしていただいた。
『少女マンガパワー −つよく・やさしく・うつくしく−』と題したこの企画会は、案内パンフのコピーによれば、世界に誇る少女マンガ家23人の展覧会、という触れ込みである。手塚治虫から始まって、わたなべまさこ、牧美也子、里中満智子、池田理代子など錚々たるメンバーが揃い、広くこの世界を見通すにはありがたい展示で、いくつかの事柄について新たに知ったり、確かなものにすることができた。
例えば、少女マンガ独特の顔の大部分を占める大きな眼、またその瞳の中に輝く星などは、やはり手塚治虫の『リボンの騎士』がルーツのようなことも確認できた。また、内面的な描写や止まったような時間の流れを表現するためのコマ割りなどはメンズコミックとは全く違う発展をしているのがおもしろかった。
その進化の過程を表す要素としてストーリー性の充実があるが、池田理代子に見られるような骨格の確かなものになり、単なる少女向けではなくなったようだ。ストーリー性と内面表現というと、19世紀末から20世紀にかけての西洋美術の展開と似ているところがあり、少女マンガの芸術性の高さを物語る一面だろう。
そして、全体を通してひとりの巨人を追認した。やはり光ったのは武宮惠子だった。映画でお馴染みの『地球へ・・』を始め、名作『風と木の詩』などの作品の優秀さのみならず、オリジナルのストーリーテラーとして、また、後進の育成、新技法の開発など、あらゆるところに目が行き届いているのが素晴らしかった。
少女マンガを含め、コミックの人材の世界は底辺が広いばかりではなく、高い頂上を支えられる十分な密度もある。どのようにしてこの巨大な文化資産が培われてきたのだろうか。文部科学省を始め各省庁、人材の質の低下に悩む企業などは、真剣に研究すべきことだろう。
Comments
コメントがありません
Add Comments
トラックバック
DISALLOWED (TrackBack)