Complete text -- "#562.人並みの苦労"

25 May

#562.人並みの苦労

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」という川端康成の名作『雪国』の冒頭はあまりにも有名だ。このように名作の冒頭はさすがと思わせるものがあり、読者を入口でしっかりつかまえてしまうようだ。ところが読み出しがいくら良くても読み進むことが難しい作品もある。「木曾路はすべて山の中である。」という書き出しで始まるのは島崎藤村の『夜明け前』だが、この簡明さとは裏腹にこの小説は重厚な文体で、暗く湿った雰囲気が長く続くのである。正直言って、辛くて読むのが嫌になる。何度かトライをしてみたが、未だに読破できない作品のひとつになっている。でも、『夜明け前』にあの冒頭がなかったらどうだろう、だれも見向きもせずに文学史にも残らない作品で終わってしまったのではないかと考えてしまう。

文章を書くとき最大の苦労は書き出しだ。こんな小さなブログの文を書くにも結構大変な思いをしているのだ。最初の三行、これが決まれば、何とか書き進めるのだ。世の作家の先生方も、ひょっとしたら同じような苦労をしていたに違いないと思われる。構想も練られ、登場人物の特徴も設定され、あとは書くだけになっても、最初の背中押しがないと作品の制作に取り掛かれなかっただろう。

PS:『雪国』の冒頭、国境は「くにざかい」と読むそうだ。お恥ずかしいことだが、ずーっと間違ったままの読み方をしていた。

23:41:13 | datesui | |
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