Archive for 07 February 2007

07 February

#198.最悪の敵

去年の10月に手術して、かれこれ4か月になる。おかげさまで回復は順調で、毎日薬を飲んだり、血圧や体重を測ったり、充実の毎日が続いている。中でもリハビリの歩くことが最大の日課になっていて、かなりの励みになっている。歩くには外へ出るのが一番いい訳だが、寒い日や雨の日は無理しない方がよかろうということで、狭い我が家の室内をぐるぐる歩きに替えるときもある。こんな状態でリハビリの歩きを進めていたとき、親しい友達から万歩計の使用を奨められた。そこで生まれて初めて万歩計を使うことになったが、使ってみると意外と深いつき合いになった。

歩き出だすと、すぐ歩数が気になる。万歩計を見ると安心する。歩数が多くても少なくて構わないのだ。2、3日こんな日が続いたが、メモリーがあるが一週間分なので、消えてしまうのは惜しいので記録をつけることにした。毎日の歩数の記録をしていくと、前日の記録を上回るとなぜか嬉しくなる。別にご褒美がでるわけではないのだが、これで喜べるとは実に安上がりにできているものだ。1か月したら集計をしてみようと思ったが、エクセルに記録していたため、毎日集計をして途中経過を出しては一喜一憂という状況になってしまった。前日を上回ることは勿論、前日までの平均が4200歩だから、その平均を下げないように歩きたい、というか歩かねばならないという気持ちになってきた。

手術後のリハビリなので、寒い日や雨の日は外へ出ないと決めていたのに、外出しないことが心配になったりするのだ。さすがに冷たい雨をついてまで外出はしなかったが、困ったことに穴埋めや取り返しを気にするようになってしまった。こうして最初の月末が来て、集計結果をドキドキしながら見た。結果は、一日平均6433歩で、なんだかホッとした。仕事に復帰していたので、16000歩という日もあり、近所だけではない外出もあったからだ。でも、6000歩とは当初の予想をはるかに超える歩数で、満足どころか快挙モノなのだが、毎日の途中経過がそのような気持ちにはさせてくれなかった。なんだか頑張った割には報われない気持ちだったが、変なものでこの6000歩が新たな目標となってしまったのだ。

つぎの月も、毎日毎日の一喜一憂を越え、カレンダーを眺めては「来週の歩数の稼げる日は・・・」というように、歩数ノルマの達成計画を真剣に考えるようになってしまった。なにか歩数を稼ぐために歩いているようで、「そうだリハビリという医療行為なのだ」と思い直すことさえ起きてしまった。それでも、つぎの月末が来てしまう。7343歩。また、ホッとした。なんだろうこれは。この安っぽい安堵感はどこからきているのだろう。長年の会社勤めが生んだ数値目標達成マシーンになってしまったのか。そんなつもりではなかったのだが、残念だ。
3か月目に入って、決めてもいない目標が目の前にチラつき、止めようと思っても意識から消えてくれない。中毒や依存症ではないと思うのだが、どうだろうか。それなら報酬としての快楽があるのだが、これはリハビリで快楽などはない。寒い日や天気の悪い日が続くと、それはもう恐喝観念にかられたような気持ちになった。

ある日、「一体、何と張り合っているのだろう」と考える機会を得た。正体のない数字との戦いを強いられる日々になってしまったのは。そのとき、実に運良く答が思い浮かんだのだ。「そうだ、自分だ!」。これは性質が悪い。相手のある競争なら勝ち負けがあるので、その時点で一旦勝負は終るが、自分が競争相手では終らない。これでは際限のない競争になるのは当たり前だ。では、どうしよう。ところが、止めたら止めたで寂しくなるのは必至だ。バカなわがままだが、このまま続けるのがたぶん正解だろう。


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