Archive for 20 February 2007

20 February

#205.ルーツを辿れば

先日本屋に行って気づいたことだが、自分の関心領域は普通の方々も関心のあることと勘違いしてしまうことがある。今から600年ほど前、足利時代という魅惑の時の流れがあった。実はこの時代が大好きでたまらないのだが、巷での人気は思いのほか低いようだ。書店の棚を見ても、足利時代は無理だろうが室町時代という棚ですらほとんどなく、淋しい気持ちになることがある。たまに中世の棚があっても狭く、しかも戦国時代となっていることが多い。
確かに、このころの200年間、国中は乱れに乱れたが、その反面きわめて豊饒な文化を生み出した不思議な時代でもあった。今に伝わる日本の諸芸や生活文化には、この足利時代を起点としているものがとても多い。茶道、華道を始め、能、狂言、連歌、香道という芸能は言うに及ばず、生活の舞台である座敷や床の間、西洋の蛮族でさえ驚嘆した庭もこの時代の産物で、まさしく日本の美意識そのものであり、日本人の生活様式の大元をつくったと言ってよいものがある。

特に、今日の日常生活の基本となる部分を遡っていくと、意外にも足利時代に辿り着くものが多いことがわかる。衣食住の住であれば、現在の間取りの基本となった書院造りは足利時代に成立したものだ。前述した座敷や床の間を含め、それが生み出した四畳半文化は「眼は口ほどにものを言い」というような日本人独特のコミュニケーション文化の形成に重要な役割を果したことは疑いもない。また、衣では、現在の和服の原型である小袖がこの時代に正装として定着した。それまでは下着としての扱いだったようだが、その活動性が上着に昇格させたとのことだ。さらに食については、日本の味を代表する醤油がこの時代に作られたのだ。味噌は奈良時代からあったそうだが、味噌汁という形になったのもやはり足利時代である。その味噌から醤油がつくられ、自家製自家消費だったものから商品化されたのもこの時代である。

小袖、醤油、書院造り、日本人の日常の衣食住における中心アイテムが、揃って足利時代に端を発していることは極めて興味のあることだ。世界に誇る日本の生活文化や美意識の源が足利時代であるのに、その扱いはあまりにも冷遇ではないかと考える。日本の文化を大切にしようとするなら、せめて書店での足利時代の棚の幅くらいは広げてもらいたいと願っているものである。


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