Archive for 01 June 2009

01 June

#566.リズムとテンポ

この前、優れた書き出しとして挙げた5つの作品は共通して心地よいリズム感がある。中でも平家物語は特にリズミカルな口調が優れていたので特記しておいたが、他の作品も卓越したリズム感があることは明白だ。漢文を含め、古典には何とも言えない気持ちの良いリズムがあり、声に出せばよりリズム感やテンポの素晴らしさが体感できるというものだ。その最たるものは『太平記』だろう。

落花の雪に踏み迷う、交野の春の桜狩り、紅葉の錦を着て帰る、嵐の山の秋の暮、・・
という名調子で始まり最後までこの調子だ。ところが名調子は良いのだが、肝心の中味がないのが困ったところで、この前のところでは候補として挙げにくくボツになった。

今の世ならばフーテンの寅さんの名セリフが太平記に通ずるものと考えたい。「結構毛だらけ、猫灰だらけ」、「蟻が鯛なら芋虫ャ鯨」、「大したもんだよ田螺の小便、見上げたもんだよ屋根屋のフンドシ」というものだが、リズム感やテンポの良さだけを狙うようになると、「さらさら流れるお茶の水、粋な姉ちゃん立ちしょんべん」とまあ、意味も不明なら品もなくなってしまう。

リズム感を高めるために形式が整えられ、これが決まったリズムとしての約束事になる。こうして、まず和歌が、そして連歌、俳句が順次発展的につくられたのだろう。漢文の世界でも唐代に現れた五言や七言の絶句や律詩という新体詩もやはり同じようなリズムを楽しむ約束事として発達定式化したものだろう。


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