Archive for 03 December 2007

03 December

#312.引用

シャキシャキとかプリプリとか、食べ物のおいしさを表現する言葉は実にたくさんある。これらの言葉が示す状態やその表現の縁、さらにはその使われ方まで楽しく記した本がある。早川文代の『食後のひととき』という本だが、そう言えばということからナルホドやビックリまで、大いに楽しめる。

本を読んでいくともう一つのビックリに出会う。それは引用の対象の広さで、その間口の広さに舌を巻く。古くは古事記から源氏物語、太平記や浮世風呂などの古典、現代文は漱石から嵐山光三郎まで登場し、更には中国の論語や春秋左氏伝に手が伸び、辞書も広辞苑はもとより江戸時代に作られた日葡辞典も扱われているのだ。その中でも脱帽モノが、つげ義春の『長八の宿』からの引用だ。

つげ義春は1960年代を代表する劇画作家だが、そこまで手を広げているとは恐れ入った。つげ義春はシュールな社会派というイメージだが、この『長八の宿』は少し趣が異なるほんのりとした作品なので、胸の奥に残るところがあった。そこに登場する使用人のジイさんが寸暇を惜しんで昼食をとるときにカリカリという言葉が登場しているのだ。早川はこれをスピード感の表現としているが、原著ではたった1か所のことで、しかも左端の小さな1コマのことだ。よくぞそこまで目を配っていたものだと、改めて驚嘆と畏敬を感じる。スゴイ!


蛇足だが、『長八の宿』に出てくる入江長八もひょんなことで関心が湧き、伊豆の松崎まで長八記念館を訪ねたことがある。機会を改めてご案内するつもりだ。
11:28:16 | datesui | No comments |