Archive for 10 April 2007

10 April

#233.不思議なアンバランス

先日、『ブラックブック』という映画を観た。ナチスドイツに家族を殺された美貌のユダヤ人歌姫の話だ。その美声と容姿でドイツの将校に取り入り、レジスタンス活動となるのだが、事情は複雑で行ったり来たりするところがおもしろかった。また、オトナ向きのお楽しみもふんだんにあって、さらに楽しめる映画だ。

この歌姫のヒロインは、ドイツの将校のパーティーに呼ばれ、歌を歌うことになる。このパーティーの中心将校のひとりが見掛けによらず芸達者で、なんとピアノを弾くのだ。そればかりではなく、この歌姫の伴奏もするし、トリの歌になるとピアノから席を立って、歌姫の歌に見事な三度でのハーモニーまで披露するのだ。半端な芸ではなく本当に素晴らしいのだが、この将校、歌姫の家族を眼に前で斬殺をした指揮官でもあり、更に劇中では悪の限りを尽くす嫌なヤツだったのだ。どうしようもない極悪非道の鬼なのだが、この音楽への造詣の深さを併せ持つ不思議なアンバランスに、単なる戦時ということでは説明のつかないものを感じざるをえなかった。

この奇妙なアンバランスは、他のナチスの映画に現れる。その最たるものが『戦場のピアニスト』だろう。その他の少ない鑑賞作品の中からでも、『愛の嵐』、『オデッサファイル』、『将軍たちの夜』など、ナチスの将校の音楽に対する造詣の深さには一目置かざるをえないものがあるようだ。それだけに非道な行為がより極悪見えてくるのだが、単に映画の上の演出だけとは到底思えないところもある。誤解を恐れずに言えば、ナチスは近代の軍隊の中でも独特の美意識を持った集団であった。この美意識から出た当然の行動だとしたら、今の軍隊とはナントつまらぬ集団なのだろうか。



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