Complete text -- "#275.転用"

06 October

#275.転用

相撲界で不祥事が続いている。テレビでは、誰もかもが言いたい放題の状態だ。いつも何を言っているのかわからない山口もえまでが意見を述べていた。「ビール瓶や金属バットは人を殴るものではないんですよね」と、ぐちょぐちょとした言いまわしでいっていたが全くその通りである。ところが残念なことに、凶器にならないものがないほど全てのものは凶器になってしまうのだ。造られたときは立派な目的があったはずだが、サバイバルナイフやナタもニュースでは凶器としての登場がほとんどだ。多くの文化や技術を生み出した二つの手でさえ凶器になるのだ。

エラリークイーンの名作『Yの悲劇』では楽器のマンドリンが凶器になった。話はヨーク家の家督が架空の物語をつくる。それは家族全員を連続殺人するものだが、作者はこれを家の奥深くに隠し事実上の封印をする。ところがその物語を年の満たない少年が偶然見てしまい、実行に及んでしまう。その2つ目の殺人の凶器がマンドリンなのだ。物語には鈍器で殴るということだったが、鈍器は英語で“Round Instrument”となり、それを少年は「丸い楽器」と解釈してマンドリンで殴るということなった。この妙な凶器に捜査当局は当惑し、読者もいろいろと思い巡らすことになる。

10年ほど前になるが、ニュージーランドへ出張したときのことだ。パソコンや測定器を抱えての出張だったが、税関でいろいろと質問された。主要な機器は回答も準備して行ったのでスムーズに答えられたが、当たり前のモノと思っていた変圧器で躓いた。トランスでは直ぐには通じなかった。しばらくしてわかってくれたが、正しくは“transformer”というのだ。そして、「他の用途に転用は可能か」という質問が来た。何も思い浮かばないので当惑した顔をしていたらOKになった。実はこのとき「凶器ぐらいにしかならない」と思ったのだが、正直に話したらどうなっただろうか。

どんなものでも凶器に転用されてしまうのは悲しいことだが、銃砲刀剣のように凶器以外に使い道のない道具もあるのだ。だからこのような専用凶器を使った犯罪はそれだけで罰を重くすることも考えていいだろう。また、これらのものを所持することは、たとえそれが美術品としての価値があろうとも「殺意あり」という認識とすべきだろうというのは言い過ぎだろうか。


18:33:07 | datesui | |
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