Complete text -- "#299.辰巳八景"

12 November

#299.辰巳八景

書店をウロウロしていたら『辰巳八景』という文庫本に目が止まった。山本一力の作だが身近な題名に知らずと手が動いた。深川の南に住んで26年になるが、この界隈は江戸の東南、つまり辰巳の方角に位置するので辰巳と呼ばれていた。現在でも辰巳は住居表示でも地下鉄の駅名としても活躍しているが、表している地域は少々控えめで、元の辰巳は深川から東へ南へ相当広い地域を示していたようだったから、今の住まいも当然辰巳になる。

門前仲町に岡満津(おかまつ)という和菓子屋がある。明治38年(1905年)創業というから100年からの老舗だ。この店の看板商品が「八景最中」で、皮に辰巳八景が刻してあるモナカなのだ。26年もいて気づいたのはつい最近だが、手土産に窮していたとき偶然目に止まったことによるものだ。東京のお土産というのは意外と難しい。名産や名物が見当たらないからだ。新幹線のお土産の案内でも雷おこしか草加せんべいになってしまうのは残念だ。一時、資生堂パーラーのお菓子にしていたときもあったが、悪くはないが印象の薄いきらいは拭えなかった。そんなとき母への手土産に何か甘いものを、と、入った和菓子屋が岡満津で、そこで八景最中を見つけることになった。そのときは触手が伸びなかったが、後日買い求めたところ、包み紙には辰巳八景の様子が描かれていて、お使い物にはこれ!ということになった。

お店のサイトによると、『辰巳八景最中』は大正12年に新聞で公募したそうだ。辰巳八景とは、富ケ岡の暮雪、相生橋の秋月、小名木川の晴嵐、霊岸の晩鐘、州崎の落雁、安宅の夕照、木場の夜雨、佐賀町の帰帆の8つ風景で、それぞれ風景を1景ずつ最中の皮に刻印してある。餡も、つぶ・こし・白あんの3種類があるそうだが、まだ3種食べていない。そういえば、8つの風景もモナカで全部は見ていないので早晩確認が必要だ。

書店で山本一力の『辰巳八景』に目が行き手にしたのは、モナカの『辰巳八景』を土産に持って行くとき、この本も一緒に差し出したらどうだろうと思ったからだ。ところが、本を手に取ったら文庫本だが400ページもある。お土産のお供にしては重すぎるかなとも考えたが、何より読んでみなくてはと思い、購入してみた。読み始めたら自慢できそうな知識もふんだんで現在大ハマリになってしまった。八景の名のとおり8つの短編から構成されているが、どれもこれもホロリ、ジーンの見事な一力節が展開されている。
お呼びいただければ、ふたつの『辰巳八景』を携えて、いつでもどこでも参上いたします。


11:27:05 | datesui | |
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