Complete text -- "#418.明るい夜"

26 June

#418.明るい夜

夜は暗いものだが、真っ暗な夜というものは想像することすら難しくなっている。電灯のおかげで闇から解放されたのは結構なことだが、明るい夜が当たり前になってしまったようだ。明かりが十分でない時代は、夕食の後は寝るしかなかっただろう。ところが明かりは寝るだけの夜から、そうでない夜をつくりあげたようだ。

室町時代に荏胡麻などを原料とする灯油が広まり、夕食後という自由な時間が発生した。これにより文化の担い手が広まったそうである。それ以前の文化の担い手は昼間から文化活動に専念できるお公家様や僧侶などに限られていた訳だが、それ以外の人たちが昼間の仕事の後、文化活動にも参加できるようになった。武士を始め、商人や農民までも参加するようになり、文化の担い手の広がりは文化の多様性をもたらすことになった。武士の好みと思われる水墨画、町衆の芸事と思われる茶道、田楽・猿楽は農民の芸能だ。

このような植物由来の灯油は仄かな明かりで、真っ暗闇から人間を解放し安らぎを与えることから、人はもてる時間を文化活動に費やすことになった。ところが近代の電灯の明かりは、明るいが優しさがなく、ただ夜を無くしただけの昼間の延長を作っただけのようだ。文明的な光は生産活動に空しく消費されてしまうが、文化的な光を取り戻すことにも力を注ぎたいものである。


10:57:32 | datesui | |
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