Complete text -- "#208.ウィキペディアからの引用"

26 February

#208.ウィキペディアからの引用

23日の新聞にウィキペディアからの引用に対する警告の記事が出ていた。アメリカの大学で、学生が日本の歴史についてウィキペディアから検索した内容でレポートを作成したところ、ウィキペディアに誤りがあったためテストやレポートでの引用を大学が禁止したとのことである。読んで、何か不思議な違和感を覚えた。普通の記事なら反対賛成ということで済ましてしまうが、この記事はそのような普通の感覚で読み終えることができなかった。

まず、大学が引用を禁止するとは大笑いだ。情報源として何を利用するかは学生の判断に任せることが大学教育だと思うのだが、この大学では引用の適不適の判断は学生には不能と思っているようだ。また、誤りがあるのはウィキペディアを利用して書いた学生のレポートであって、ウィキペディアではなくても引用元に誤りがないことは保証できないと考える。

記事を素直に読めば、引用した側の責任だから、真贋選別能力をどうもつかということになりそうだ。だが、どうもウィキペディアそのものを否定したい意図が読み取れてしまうのだ。それは、ウィキペディアに間違いが多いという類の話ではなく、情報の権威に関わることだからだ。Web進化論の梅田さんによれば、今まで引用の対象とされ崇め奉られてきた権威が危うくなっているということだ。従来、言論の自由は保証されていたようではあったが、紙に印刷された文字情報は誰でも構わず発信活動に参加することは許されていなかった。一部の権威だけに許されたことで、実は情報の特権階級が形成されていたのだ。辞典や辞書は、権威ある編集者が権威ある識者とやらを集めて、長い時間を掛けて編纂したものである。それをどこの誰だかわからない輩がどんどん作ってしまうのは、彼らにとっては権威を蔑ろにされたばかりではなく、オマンマの食い上げにつながる忌忌しきことである。現に、ウィキペディアも日本のサイトでの項目数は30万を超えており、広辞苑でさえ23万項目であることを考えれば、もはや新たな権威と判断できよう。

今回のことはアメリカでのことである。日本の権威筋も、多少なりとも援軍を得たりという気持ちだったのかもしれない。まっ、大学の先生方は自分の本から引用してもらいたし、最大の権威筋の新聞も近い将来このままでは売れなくなることは明白だろうから。


06:00:00 | datesui | |
Comments

ウィヌム wrote:

これ、見落としていた記事で、例によって参考になりました。
「大学が引用を禁止するとは大笑いだ」というご指摘、同感です。ただ、現場にいる身としては笑えない部分もあります。

というのも、学生の調べものの大半が今、ウィキペディアで済まされているという現状があるからです。
私は引用元を明記することを口うるさく言っていますので、記事の大学みたいに、わざわざ調査をしなくてすみましたが、違いはそれだけ。ウィキペディア花盛りなのは同じことでした。
ただ、引用先を明示させて、その状況を共有化することが、巧まずして「これでいいのか」「ちょっとまずいのではないか」という自覚を促す暗黙のプレッシャーとして機能していたように思います。そして、その後独自の工夫を行ってレポートした者を、一生懸命褒めました。

一方、「使うな」、というのは「しつけ」でしょう。問答無用で型を教えるしつけは初等教育の常道です。ですから、お笑いであっても、かの大学は危機感を持って「善導」しようとする気概を持っているのではないかとも感じました。
しかし、大学生を初等教育なみに扱うというところが悲しいところ。ここに「苦笑い」の種があります。

ウィキペディアで調べた程度のレポートには30点。それに及第点をあげる教員も30点、ということでいかがでしょうか。
なんか、自分にだけ及第点をあげるようでお恥ずかしい話ですが、引用元の明記がもたらす効用というものを宣伝させていただきます。
02/26/07 15:48:45

datesui wrote:

ネット上の情報系は普通の印刷文字情報の世界とは相当違うようです。いかがわしいモノ、怪しいモノというような、推敲不足や生煮えのままの情報が平気で出てきます。
実は、これがありがたい。小耳に挟んだような情報で本には載っていないような知識でも、ネットの上では堂々と登場しているのが嬉しいのです。

ネット上をあちこち歩き回って、不確実な情報をつなぎ合わせて新たな文脈を作ると、引用先を何とするかは極めて難しくなります。思い上がった言い方ですが、もはやオリジナルです。
02/27/07 01:51:37
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