Complete text -- "#241.至福のとき"

24 April

#241.至福のとき

最近見た2つの映画で同じような場面があった。『今宵、フィッツジェラルド劇場で』と『ブラックブック』での出来事だ。ともにデュエットで歌を歌うのだが、即興でハモるという場面だった。いわゆるハモる方は、相手のソロシンガーの口を見て、合わせていく訳だが、両方ともなかなかの芸達者ぶりで、ハモリ自体も雰囲気も素晴らしい出来だった。

即興でのハモりは、チョットやると病み付きになるほど楽しく、これがもとでバンドも始まるのだ。言ってみれば、ザ・ピーナッツの『恋のバカンス』のノリで歌うようなことだが、これがハマッタりすると本当に楽しい。特に、3度でハモれるようになると、カラオケでも始めることになり、初めての曲でも何でもハモりたくなるのだ。そんな馬鹿な仲間がスナックで顔を会わせると、ジャンケンまでしてパートの取り合いをすることになる。もちろん勝った方がハモる方で、負けた方は仕方なくソロになる。そうなるとハモる方は威勢がいい、とにかく失敗しても当たり前、上手くいけば儲けモノなので思いっきりハモれる。対してソロは大変だ。正確にしっかり歌うことは当然、個性を殺して歌わなくてはいけない。フェイクなんてもっての外、ただひたすら黙々と歌うことになる。そして、終れば評価や関心全てハモる方で、ソロは全くの縁の下の力持ちにされてしまうのだ。昔、学校で音楽の時間に歌を歌うときは、確か主旋律担当は目立つのが相場だったのだが、ここではどっこい立場が逆転をしているところがおもしろい。

三味線の芸がそんな感じらしい。主旋律はお弟子さんが本手と言って、一音一音丁寧に間違いなく弾いていくが、そこへお師匠さんが対抗旋律を流したり、また装飾音を奏でたりするのである。これを派手というらしいが、三味線の醍醐味だそうで、個性の発揮できる場でもあるのだろう。
とにかく即興で気心しれた仲間と気持ちを合わすのだが、これって結構贅沢なことかもしれない。


06:00:00 | datesui | |
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